2010年6月2日水曜日

Appleと電子書籍の未来

いよいよiPadが日本でも発売となった。
おかげでここ数日は猫も杓子もiPad、である。
テレビ、新聞、ネット、あらゆるメディアで取り上げられている。
iPadは様々な面を併せ持っており、一つの側面だけでは語れるものではないが、今回は「電子書籍リーダー」として見た時のiPadについて考えてみたい。

iPadは美麗な液晶(安価なTNパネルではなく、プロも使用するIPSパネルらしい)、持ちやすい重量、それなりのバッテリーの駆動時間、わかりやすいユーザーインターフェース、それでいて手頃な価格……と魅力的な商品になっている。
電子書籍リーダーとしても現在のところベストチョイスであることは疑いはない。

ところで私の場合、iPadを買うか?と問われれば答えはNoだ。
では失敗すると見ているか?と問われれば、これまた答えはNoである。
つまり成功していると見ているが、自分は買わない、というわけだ。

iPodとデジタル音楽、iPhoneとモバイルアプリケーション。これらを有機的に結びつけた上でビジネスとして成り立たせ、さらに大きく育てたところにAppleのすごさがある。
しかもiPadの場合iPhoneの土台を利用することができる。これで成功しないはずがない。
事実これまで出版物のデジタル化に消極的だった日本の出版業界も、今回のiPad騒動で急ピッチで対応しようとしている。
iPhone・iPadの売り込みに熱心なSoftbankの孫社長も、「ビューン」というコンテンツサービスを始めた。

Appleはすごい。社会を動かすだけのパワーとアイディアと……それをささえる熱心なファン(販売開始と同時にハイタッチ、なんて他では見られないだろう)が居る。
そしてAppleは商品を作る上で必要なことは何でも自社で出来てしまうし、やろうとする。
コンセプト、デザイン、ハードウェアの設計、販売、サポート、コンテンツ……。なんでも自社でやらないと気が済まないらしい。

最近の例では、Apple社製の商品の通信販売を大きく規制したことがある。非常に厳しいライセンスを提示し、その条件で結べないところは通販を停止してしまった。
それまでは新製品が発表されるとネット通販では旧製品の安売りがなされていた。
それがAppleには気に入らなかったらしい。

他にも例はある。
iPhoneのアプリケーションはAppleが管理するApp Store経由でしか入手・インストールは出来ない。
それだけでも十分強い統制がなされているように思えるが、さらにAppleはApp Storeに登録するために厳しい条件を課していて、それをクリアしないことには公開することもままならない。
もちろん安全性や健全性を保つために一定のルールが存在することは結構だが、それは公平で透明性の高いものであるべきだろう。
中には文書上の条件をクリアしているにも関わらず、登録を拒否されるケースもあるようだ。
そうしたアプリは真っ当なルートでは日の目をみることはできず、お蔵入りすることになる。
そういうアプリケーションの受け皿として、脱獄(Jail break、Apple社による制限をハッキングにより外すこと)をしたiPhone専用のアプリケーションストアまで存在している。
またアプリケーションを動かすために中間レイヤーのようなものは一切認めたくないらしい。
いろいろ理由をつけて入るが、その一環としてか一般的なWeb技術であるFLASHはiPhoneでは動かせないし、アプリケーションを作る際にクロスコンパイルすることも認めていない。

思い返してみれば、iTunesで買った音楽にも制限は課されていた。
それが理由で、例えばWalkmanなどに乗り換えない人もいるだろう。

同じことがiPadで起こらないとも限らない。
iPadで楽しむために買ったコンテンツが、別のデバイスで利用できるという保証はどこにもない。
自分の欲しいと思ったコンテンツがiPadで楽しめるという保証もどこにもない。

Appleはすごい企業だし、素晴らしい商品を生み出している。
だけどそれを買うということは同時にとても管理が厳しい世界が待っているということでもある。
Appleの美学に共感し、ジョブズの思想は何でも受けれる覚悟があるならそれもいい。
だけど私にはそこまでの覚悟はないし、なにより「ゴメン」だ。

iPad発売に前後してそれに対応する動きが活発になるとともに、対抗の動きも出てきている。
各社が出しているiPad対抗タッチパネル端末やコンテンツサービスだ。
それら一つ一つはAppleという巨人に比すれば小さなものだ。
だけれどもそれらは大体が標準的で共通のものに依拠している。
だから束になってかかれば、あるいはAppleに対抗できるかもしれない。

電子書籍の未来がどうか便利で、そしてオープンで自由であるものであることを望む。

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